ビットコインマイニングを事業に取り入れている、アジャイルエナジーXのことを詳しく知りたい!
アジャイルエナジーXは再生可能エネルギーの導入を最大化することと、電力系統の最適化を目指している企業です。
※電力系統…発電設備や送電設備など、電力の生産から消費までを行う設備全体を指す
東京電力の100%子会社が手掛けており、再エネとマイニングを組み合わせた独自の仕組みは国内外から関心が寄せられています。
この記事は、アジャイルエナジーX代表取締役社長の立岩健二さんとお話した内容を、文章にまとめたものだよ。
事業に関する率直な感想や疑問をぶつけてきたから、ぜひ最後まで読んでほしいな。
立岩健二さんと筆者(Minami)が話している様子は、以下のPodcastで聴くことができます。
https://open.spotify.com/episode/7h5JQiBW0uLLMErrK52JNK
アジャイルエナジーXがどのような事業を行っているかを知りたい方は、先に以下の記事をご覧ください。
関連記事:アジャイルエナジーXのビットコインマイニングとは?東京電力子会社の取り組みを解説
アジャイルエナジーXは説明が難しい?
立岩さんは環境・脱炭素・地域系など、色々なYouTubeチャンネルでインタビューを受けているよね。
その時にはそんなにビットコイン色を前面に出していないというか、「ビットコインで儲けるビジネスではない」っていう風に言っているなって思ったよ。
でも、ビットコインに関心をもつ人の中には、お金儲けできる話に期待する人もいると思うから、マーケティングとかやりにくいんじゃないかなって感じたんだけど、どうかなぁ?
ありがとうございます。
我々は何か商品を売る会社ではないので、マーケティングはいらないと思っています。
立岩さん:エネルギー問題解決のためのソリューション開発をしているんですけど、誰かにそのソリューションを買ってもらうっていうわけではなくて。
※ソリューション…解決・回答
大きくそのビジネスの柱は2つです。
1つは未利用の再生可能エネルギーを有効活用する手段としてビットコインマイニングを使うということなんですが、マイニング装置を誰かに売るわけではなくて。
アジャイルエナジーX自身がマイニング装置を所有して、使い切れていない再生可能エネルギーを調達してきて、自らビットコインマイニングをするというビジネスモデルです。
「ビットコインって素晴らしいんですよ」って誰かを説得する必要がなくて。
使い切れてない電気があるところに、我々がアプローチして、一緒にコラボすると、未利用の電気がマネタイズできますよと。
そういうビジネスが1つです。
もう1つがちょっと分かりにくいんですけど、系統混雑という電力会社の課題があってですね。
再生可能エネルギーをたくさん電力ネットワークに繋ぎたいんですけど、電力ネットワークの容量に制限があって繋げない、という課題があります。
繋げるようにするため、一般送配電事業者という送配電会社が設備増強をしなければならない状況になっているんですけど、それはものすごい時間もお金がかかって。
そのお金は結局は、託送料金という形で電気代に上乗せせざるを得なくなり、電気代を払ってくれるお客様の負担になる。
それを設備増強する代わりに、ビットコインマイニング装置で、系統に流し切れない電力を吸い取ることで、電気代のコストダウンにつながる。というビジネスがもう1つあって。
これも誰かにビットコインマイニング装置を売るわけではなくて、アジャイルエナジーX自身がビットコインマイニング装置を所有して、系統に流し切れない電力を吸い取ることで、最終的には電気代の低減につなげる。
そういうビジネスです。
なので、「ビットコインが良い物で値上がりする」とかって言う必要は全くなくて。
我々はその立場、認識をした上で電気を効率的に吸い取るビジネスが展開できればよくてですね。
マーケティングというか、発信している意味合いとしては、
「ビットコインというのは悪いものではないし、ビットコインマイニング装置は電気をたくさん使うんだけど、それは無駄遣いではなくて、良い使い方をしているので、ご心配なく」と、そういう活動という意味でYouTubeなどでお話させてもらっている、という位置付けになっています。
そういえば、立岩さんがStephan Liveraさんのポッドキャストに出演していた動画を見たんだ。
立岩さんはすごく上手にお話しされるんだなって思ったよ。
Stephan Livera…ビットコインに関する世界的に有名な音声配信者
ふと思ったのは、立岩さんがその放送の中で「オレンジピル」という言葉を使っていたなって。
日本でのビットコイン系のインタビュー動画では使っていなかったのに、その英語の放送で使っているのを初めて聞いた気がして、もしかしたら日本と海外とで言葉の使い分けまで考えているのかなって。
それってビットコインによっぽど詳しいっていうか、日本語と英語の両方でビットコインの情報を得ているからこその使い分けなのかな~なんて思ったよ。
それはですね、かいかぶりですね。そこまで考えてないですよ。
オレンジピルと言っても、本当にビットコイナーしか分からないじゃないですか。
これまでは日本において、そもそも海外向けに発信していなかったっていうのもあって。我々もエネルギー問題、電力問題解決っていう切り口で、そういう分野の人と話す時に「オレンジピル」と言っても通じないので。
使わないし、使う必要もなかったということです。BitcoinTokyoでは、使う局面が無かっただけで、あえて使い分けしていたわけではなく。
Stephan Liveraとの話の中で、どうやって東電の経営を説得したんだみたいな話の中で、「必ずしもビットコインについて完全に理解してもらったわけではない」という流れの中で、とっさに「オレンジピルしたわけではない」というのが出てきただけです。
あらかじめ「こういう場ではこう言おう」って思っていた訳ではなくて、その時の思いつきで言ってみたっていう感じですね。
対応力がすごいなぁ。
立岩さんのインタビュー動画を色々見て、心からそう思ったよ。
ちなみにBitcoinTokyoでの立岩さんの登壇、途中のあの展開にはみんながびっくりしたんじゃないかな。
動画が公開されているから、まだ見ていない人は必見だよ。
アジャイルエナジーXの事業内容について
アジャイルエナジーXの事業について、気になったことを色々聞いてみるよ!
- 補助金が前提の仕組みなのか
- マイニングマシンは4~6年で買い替えが必要?
- 暴落とマイニング事業者
- 他のアルトコインマイニングを行う可能性
- 半減期は大きなイベントになるのか
補助金が前提の仕組みなのか
ビットコイナーの中には、「国の補助金政策はお金のばらまき」という風に問題視している人もいるよね。
再エネって補助金が出る仕組みだって聞くけど、アジャイルエナジーXの事業は補助金が前提になってたりするのかな?
前提になっていません。
補助金漬けのビジネスはビジネスじゃないと思ってますので、それは頼らないつもりです。
補助金は前提になっていません。
ただし、全く使わないかと言うと、使える局面があればあえて拒否はしないというスタンスです。
具体的にどういうことかと言いますと、最終形としては2050年カーボンニュートラルという国策を進めていく上では、変動再エネをたくさん入れざるを得なくて、そうすると無駄になる再エネがものすごい量が出てくるので。
それを無駄にしないための柔軟なデマンド(需要)の1つとして、ビットコインマイニング。
※カーボンニュートラル…温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的に排出量をゼロにすること
他に、AIのデータセンターとか、色々柔軟な負荷が出てくれば、それも当然考えるんですけれど。
今のところ、最も可能性の高い柔軟な負荷として、ビットコインマイニングで、無駄に捨ててしまう再エネを使う、っていうのが将来ビジョンなんですけれど。
その時は補助金とか全然当てにするつもりはないです。
足元では「無駄にある再エネが増える」というのと、別の話でいろんな自治体さんが「脱炭素を進めよう」という動きがあって。
脱炭素先行地域という、国の補助金や交付金を使いながら、自治体さんの脱炭素を進める国策が動いているんですね。
※脱炭素…二酸化炭素の排出量をゼロにする取り組み
そのような中で色々な自治体さんから「脱炭素を進めたくて、特に太陽光をたくさん設置する場所はあるんだけど、設置しても太陽光電力を使い切れるような需要が(特に田舎の自治体さんとかには)なくて、困っている」と。
そこでせっかく設置した太陽光電力を有効活用できる需要として、「アジャイルエナジーXのソリューションを持ってこれないか」という相談を受けたりするんですね。
その時には、自治体さんの方ですでに脱炭素先行地域とか、あるいはそれ以外にも色々な補助金制度があるんですけれど、そういうものを自治体さんが使えるのであれば、我々はその大きな流れの中に乗っかって一緒に脱炭素を進めるという取り組みもしていくつもりではあります。
ただそれは補助金目当てではなくて、我々がいなくてもいずれにしても自治体さんの方で国のお金を使いながら脱炭素を進めていこうという中で、我々がお手伝いすると。
そういうアプローチになっています。
マイニングマシンは4~6年で買い替えが必要?
マイニングマシンの寿命って4年~6年くらいって話を聞いたことがあるんだけど、その都度買い替えが必要になるのかな?
一般的には4年~6年というのは、
「多分それぐらいで壊れてしまう」というよりも、
「それぐらい年数が経つとどんどん新しいマシンが登場して、競争力が相対的に落ちることで利益が出なくなるので古いマシンは引退させる」という、経済的な寿命という理由が大きいと思っています。
アジャイルエナジーXの場合でも、ビットコインで儲けるというビジネスに関しては同じような課題が出てくると思っているんですけれど。
我々普通のビットコインマイニング事業者さんと違うのは…1つの柱は、未利用の再生可能エネルギーでビットコインマイニングをしますと。
そのモデルにおいては、マシンが4、5年経って、相対的に儲からなくなると引退させる必要が出てくるという意味では、他のマイニング事業者さんと似たような状況だと思っています。
で、違うのはですね。
系統混雑を緩和するというビジネスの柱においては、電力系統に流し切れない再生可能エネルギーを吸い取ることに価値があるので、4、5年経って、ビットコインマイニングという観点からは収益性が落ちてしまった型落ちのマシンであっても、物理的に壊れていなければ、系統に流し切れない電力を吸い取るマシンとしてはまだ役に立つんですね。
電気を吸い取って熱にするだけだと何も生み出してないんですけど、4、5年たった型落ちマシンでも多少のビットコインは生み出されるので、それ単体では儲からないかもしれないけど、系統混雑を緩和するという価値は型落ちマシンでも役に立つと。
そういう意味ではマイニング装置を二毛作、というかですね。
最初は未利用再エネでビットコインで稼ぐというのを4、5年やった上で、4、5年たってそのマシンがビットコインマイニング自体の収益性が落ちたら、今度は系統混雑緩和という、系統に流せない電気を吸い取るという価値を生み出す第二の人生を、物理的に壊れるまで続けると。
そういうマイニング装置の二毛作ができるという風に考えています。
マイニング装置の二毛作!何だかおもしろいね。
暴落とマイニング事業者
よく、海外のマイニング企業が「ビットコインの大暴落時の価格下落に耐えられなくて、事業撤退する」みたいなのは見てきたんだけど、そういうのとはちょっと違う感じのビジネスモデルを取っているってことなのかな?
その通りで、ピュアプレイのビットコインマイニング事業者は、ビットコインの価格(より正確にはそのハッシュプライスの上下)によって、下がってしまうと収益性が落ちて、ビジネスが回らなくなるという、
非常にボラタイルなビジネスなんですけれど…
※ピュアプレイ…特定の製品やサービスに特化した会社
※ボラタイル…激しい値動き
アジャイルエナジーXの場合はそういう側面は一部あるにしても、もう一つの系統混雑緩和というのは、ハッシュプライスに全く依存しない、むしろハッシュプライスが下がって、ピュアプレイのマイニング事業の収益性が下がった時には、マシン自体製品の価格も下がる。
※ハッシュプライス…マイニング機器が1秒間に計算するハッシュ(ビットコインの取引データを暗号化して検証する計算の単位)に対して、どれくらいのビットコイン報酬や手数料収入が得られるかを表す指標
そうすると我々は、まだ使えるけれど収益性はあまり高くないマシンを安く調達することで、系統混雑緩和を安価に実現できるという、そういうヘッジ効果を有しているビジネスモデルになります。
他のアルトコインマイニングを行う可能性
海外のマイニング事業者だとMARAとかは、ビットコイン以外のアルトコインもマイニングしているみたいだけど、アジャイルエナジーXではどうなんだろう?
アルトコインをマイニングする可能性も考慮しているのかな?
ほとんど考えていないです。
まず、ビットコインで儲けることが目的ではなく、エネルギー問題解決というのが我々の目的なんですが、それに最も適した、効率的に電力を消費して付加価値に転換するものが何かという発想から、そもそもアジャイルエナジーXは始まっているんですけれども。
その結論の1つがビットコインマイニングです。
基本はPoW、プルーフオブワークを使っている仕組みが、1番フレキシブルに大量の電力を別の付加価値に変換できるっていう結論になっていて、その1つがビットコインなのですが。
PoWを採用してる仮想通貨、イーサリアムはPoSに移行して、もうほとんどなくなってる中で、一部PoWを使っているアルトコインがあると思うんですが。
それを考えていないのは…現時点でそのアルトコインのマイニングが短期的に収益性があったとして、かつ電力を使うPoWなので、表面上はビットコインマイニングをやっているのと同じ効果が得られるのかもしれないんですけれど。
「なんでそのアルトコインのマイニングをやっているのか?」と問い詰められた時に、
「このアルトコインには本質的な価値があるんです」と、私自身が胸張って言えるほど理解できていないし、そこまで確信が得られるアルトコインを知らないので、ビットコインマイニングしか今は考えていない、という状況です。
そう聞くと何だかうれしくなるね。
そういう意味では、ビットコインスタンダードっていう本を、この夏に読み込んでですね。
「なるほどこれは、改めて、ビットコインっていうのはよくよく考えられたものだな」っていう確信になったんですけれど。
ただ、技術革新っていうものは色々進んでいくと思いますので。
もし第2のビットコインのような、しっかりした設計思想で、本質的な価値があって、世のため人のためになるアルトコインがもし出てきたとすれば、それは排除するものではないとは思うんですけれど、今のところそういうコインには出会っていない。
なので、第2のビットコインスタンダード、なんとかアルトコインスタンダードみたいな本が出てきて、しっかり理論的にも確立していて、世の多くの人がその通りだよねと、ビットコインのように10数年の実績を経て、技術的な穴も見つかっていないというコインが出てきたら、それは検討の余地はあると思うんですけれど。
今のところ無いですし、当分出そうな気配はないのかなというのが今の理解です。
半減期は大きなイベントになるのか
マイニングは半減期を迎えるたびに報酬が半分になるよね。それはマイニング事業者にとってすごく大きなイベントだと思うんだけど、アジャイルエナジーXにとっても大きなイベントになるのかな?
例えば、今年の4月に半減期があって、6.25BTC→3.125BTCっていう風に半分になったけど、その前後で何か特筆すべきこととかはあったの?
ありません。
断言した!
何で断言できるかというと、今の時点でビットコインによる収益はほとんど無いに等しいぐらいだからです。
2022年8月に会社を設立して、2022年の10月から実際に事業開始したんですけれど。
栃木県那須塩原市と群馬県昭和村の二箇所に、それぞれコンテナに入れた50キロワット分のマイニング装置を設置して動かしているんですけれど、50キロワットずつなんですよ。だから全然小規模で。
かつ普段動かしているのは群馬県昭和村の方で、これは太陽光に連動して日中50キロワットの太陽光発電所が稼働している時には、その電力を遠隔で自動で全てビットコインマイニング装置で自家消費してビットコインに変換するのが毎日動いています。
ただ、太陽光なので稼働率は年間を通して低いですし、しょせん50キロワット分のマイニング装置なので、得られるビットコインはわずかですと。
発電所は通常メガワット(MW)やギガワット(GW)規模で発電するから、キロワット(KW)というのは確かに規模が小さいね。
栃木県那須塩原市の方は、配電線から直接電気を吸い取るという実証をするための設備で、たまにデータを取るために動かすんですけれど、普段は止まっているので、こちらは尚更入ってくるビットコインの額は非常に少額です。
なので、半減期が今年の4月に起きた時に、特に群馬県昭和村の方で得られるビットコインの方はその瞬間半分になりましたが、もともと少額だったので、少額が半分になったので、まあうれしくはないですけれど。
元々そこに期待していなかったっていうのが現状です。
ただ、今後、我々50キロワット2つで止まるつもりはもちろんなくてですね。
本格的にビットコインマイニング装置も使いながら日本のエネルギー問題を解決していくためには、それこそ数百メガワットとかですね、場合によってはギガワット規模の、柔軟な電力需要設備を入れていく必要があって。
そうなると半減期で報酬が半分になるっていうのは、大きなインパクトは出てくると思います。
ただし、先ほど申し上げた通り、我々は普通のピュアプレイ・マイナーではなく、系統混雑緩和という方のビジネスは半減期に影響がないですので、そこはかなりの部分、半減期によるインパクトはヘッジできると思います。
原子力発電について
立岩さんは原子力についてとても詳しい方だから、原子力関連の話も聞いてみるよ!
- 原子力を使った発電にも利用できる?
- 原子力発電を活用したマイニング
- 海外と日本、原子力に関する世間の認識の違い
原子力を使った発電にも利用できる?
アジャイルエナジーXの仕組みは、原子力を使った発電でも利用できるようなものなの?
できます。
これは我々、どんな電源であっても柔軟に電力需要を作れるというソリューション開発をしていて、その一つがビットコインマイニングなのですが。
ビットコインマイニングは世界的には、ベースロードで常に動かしているマイニング事業者が大半です。
※ベースロード…電力供給事業において、季節や時間帯によらず年間を通じて最低限に維持・供給される発電量
ほとんどのマイニング事業者はなるべく高い稼働率で動かそうとしていて、それは水力発電所の近くにマイニング装置を置いてずっと回していくとか、そういう事業者もいるんです。
さらに最近ですと、アメリカのペンシルバニア州にある原子力発電所の敷地内に、300メガワット規模のマイニング装置を置いて、原子力電力でマイニング装置を動かしている事業者も出てきていますので。
これは原子力であろうが水力であろうが、太陽光・風力・火力、何であっても、電気をデジタル価値に変換するという意味ではビットコインマイニング装置はどんな電源であっても使える技術です。
ただ、アジャイルエナジーXが今、日本で原子力でビットコインマイニングをするかというと、今の日本で原子力の電気が余っているわけではないので、それをやる価値は今のところないですと。
今やる価値があるのは、捨てざるを得ない再生可能エネルギー電力を有効活用する、というのが社会的な課題として解決する必要があるので、そこにフォーカスをしていますけれど。
技術的にはどんな電力であってもマネタイズすることはできます。
原子力発電を活用したマイニング
海外では、原子力の活用したマイニング研究も行われていると聞いたけど、日本ではまだそういう感じではないのかな?
そうですね。わざわざビットコインマイニングで原子力の電気を買うニーズがないからですね。
ただし、長期的には日本で、例えば2050年にカーボンニュートラルを達成するという国策を実現させるには、再エネだけではベースロード電源にならないので、再エネと原子力の組み合わせでカーボンニュートラルを実現するのが現実的な策になるんですけれど。
そうすると、変動する再エネと原子力を組み合わせた時に、電気が供給過剰になった時に、再エネだけを出力制御という形で止めるのではなく、原子力も供給過剰の場合は止めざるを得ないという状況になることが、可能性としてはあるんですね。
その時に原子力は、ベースロードで常に100%で運転するのが、経済的にもいいですし、安全上も出力を変えない方がいいですので。
でも供給過剰になって止めざるを得ない時には、止めるのではなくて、その時にはビットコインマイニング等の柔軟な需要設備で原子力電気をそのまま100%で動かしながら、供給過剰分を吸い取ると。
そういう必要性が出てくる可能性は日本においても長期的にはあって、その時にはビットコインマイニングは役に立つと思っています。
そういえば最近、マイクロ炉っていう、2m×1mみたいなすごい小型の原子炉が、日本でも開発が進められてるっていうのを聞いたよ。
工場で作ってトラックで運べる、みたいな原子炉が作られているとか、離島での発電が検討されてるっていうのを聞いて、まさにそれって電力が余る状態があるよなって思って。
すごくビットコインマイニングと相性が良いような気がしたんだよね。
そうですね、日本で今マイクロ炉の開発が進んでいるかっていうと、多分あんまり進んでいないとは思っています。
ただ、海外ではそういうコンセプトが検討されていて。
小さなマイクロ炉というよりも、その手前の小型モジュール炉・SMRというものが今世界的にブームになっていまして。
今日もAmazonがSMRの会社に出資をするというようなニュースが出ていましたし、少し前にはGoogleが小型炉を発注したか、その電気を買うのかっていう記事も出ていて。
今の大型の原子炉よりは数分の1のサイズ、という意味のSMR(スモール・モジュラー・リアクター)が今世界的に開発が進んで、資金調達もそういうベンチャー企業が行っていると。
そういう流れになっています。
ただ、長期的にはもっと小さなマイクロ炉っていうのもニーズはあると思います。
離島で、小型の原子炉あるいはマイクロ炉を設置して、そこでビットコインマイニングもできますし、あとはその原子力電気で水を電気分解して水素を作るとか、あるいはその水素と一緒にグリーンアンモニアを作って、そういうエネルギーキャリアを離島で作った上で、その燃料を日本の本土に輸送して火力発電所でグリーン水素とかグリーンアンモニアを燃やす…
※グリーン水素…再エネを使って生産され、製造時も使用時もCO2を排出しない水素
※グリーンアンモニア…グリーン水素を原料としたアンモニア
そういうエネルギー基盤への変換は、いずれ必要なんじゃないかなと思ってます。
すごいね。アジャイルエナジーXの仕組みが色々な技術を組み合わせているように、原子力も様々な形での活用方法が考えられているんだね。
海外と日本、原子力に関する世間の認識の違い
原子力っていうと、世間の人の認識についてもちょっと聞いてみたいな。
海外よりも日本だと、あまり良い印象が持たれてないものなのかなぁ。
そうですね。
日本はやはり東日本大震災後の福島第一原子力事故を経験しましたので、そこは当然慎重になる意見があるっていうのは事実だと思っています。
海外といっても1つではなくて、色々な国の中でも色々な考えの人はもちろんいるんですけれど、最近の流れとしては色々な国の方で原子力電気は必要だよねっていう流れになって。
最近データセンターの電力需要が増えていく中で、原子力電力に依存する・期待する、という声が、海外では特に高まりつつあるっていうのは事実です。
※データセンター…コンピュータやデータ通信などの装置を設置・運用することに特化した施設
原子力についてネットで調べると、検索結果がすごくネガティブで、「失敗する」とかそういうのが多いよね。
それを眺めてたら、ふと「ビットコインみたいだな」って思ったんだ。
立岩さんは原子力とビットコイン、両方に関わっているよね。
なんかすごい辛いんじゃないかなぁとか、メディアの発信方法がちょっとなんだかなあって思われることも多いのかなって、何となく想像しちゃった。
ありがとうございます。
その通りで、両方、何と言うか…色々な思いの人がいる技術というか、テーマではあります。
私は、2018年にアジャイルエナジーXに繋がるビジネスを思いついて。
色々調べていく中で、面白いことに、海外でビットコイン、特にビットコインマイニングをやっている人の話を直接・間接に、例えばポッドキャストを聞きながらとか、調べていくと、
「ビットコインマイニングと原子力は一番最適な組み合わせなんだ」という意見の人がすごく多いんですね。
原子力というCO2を出さず、ベースロードで安定して安価に電力を供給できる電源と、ビットコインマイニングを組み合わせると、最も効果的に電気をビットコインというデジタル価値・金融価値に変換できる、
という風に言っている人がすごく多くてですね。
その通りだなと思いながら一方で、両方、ネガティブな感情を持つ人も多いので、これの発信の仕方は難しいですし、気をつけなきゃいけないんですが。
うまくこの組み合わせを進めると、色々な社会課題を解決できるのも事実なので、そこは冷静に建設的に、色々な考えの人ももちろんいるんですけど、議論・対話を通じて、世の中を良くする方向にこれらの技術を使っていけるといいのかなと思っています。
それはビットコインだけではないですし、原子力ではなくて色々なソリューションを組み合わせて、総合的に日本及び世界を良くしていければいいのかなと思っています。
アジャイルエナジーXの普及
アジャイルエネルギーXがこれからどんな風に普及していくのか、ちょっと気になったから聞いてみるよ!
- 今後の試算について
- 市町村が導入した際の流れ
今後の試算について
全国の再生抑制電力をマイニングでマネタイズした時、「2050年には1年で約3600億円のマイニング収入になる可能性がある」っていうデータを見たんだけど、これはあくまでも、「アジャイルエネルギーXを導入する自治体が順調に増えていったら、達成できる可能性がある」っていう認識でいいのかな?
これはですね、自治体さんが導入するっていうことではなくて…
そもそもこれは広域連系系統のマスタープランという、半分公的な機関が出した推定値を元にした数字なんですけれど。
要は2050年断面で再エネ比率が5~6割。5~6割は日本の電源の中で再生可能エネルギーを占めるとすると、その多くは風力とかだったりするので、すごく変動します。
「捨てられてしまうものが増えてしまって、それが24万ギガワットアワー(GWh)という膨大な電力を捨てざるを得ないことになる可能性がある」という、そんなシナリオがまず公開情報としてあります。
それを、ビットコインに変換するという時の我々の試算の根拠は、自治体さんにやってもらうのではなくて。
例えばアジャイルエナジーX1社が(我が社は別に独占するつもりはないんですけれど、計算を簡単にするために)、この24万GWhという、捨てざるを得ない電力の10%を買い取って、ビットコインマイニング装置を動かしたとした時に。
その時のハッシュプライスとか次第ではあるんですけれど、1KWhの電力を15円相当のビットコインに変換できたとすると、年間3600億円のレベニュー(収入)になると、そういう試算なんですよ。
それは自治体さんは関係なくて。
具体的には例えば北海道に大量の洋上風力が導入された時に、北海道に必要な台数のマイニング装置を置いて、出力制御で止めざるを得ない風力電気をマイニング装置で吸い取ったとしたら、例えばこうなるという数字、という考え方になっています。
市町村が導入した際の流れ
もし1つの市町村がアジャイルエナジーXの仕組みを導入することになった場合には、どんな流れになっていくのかな?
導入に何年ぐらいかかるとか、安定して稼働できる期間とか…結構時間がかかるのかな。
1つの市町村が導入するのに10年とかかかっちゃうと、大丈夫かな?とか、そんな風に思ったんだよね。
なるほど。
まず、ある市町村が導入する場合という過程は、自治体さんの課題解決というのは、我々が達成しようとしていることの一部であってですね。
自治体さんの脱炭素推進をお手伝いするというのは一つではあるんですが、再生可能エネルギーの変動分で未利用なものを有効活用するという切り口からは、自治体さんは必ずしも関与していただく必要はなくてですね。
再生可能エネルギーを導入する発電事業者さんとアジャイルエナジーXが連携することによって、今後大量に捨てざるを得ない電力を発電事業者さんとアジャイルエナジーXが組んで、未利用電力をビットコインマイニングなどで別の付加価値に転換すると、そういう組み方を想定しています。
そうした時に、2050年に向けて、ものすごく大量の再生可能エネルギー電源を入れないといけなくて。
これは何年規模でかかる建設工事などがあり、発電所を作るという意味で時間がかかります。
一方で発電所ができて、太陽光や風力などの電力がたくさん供給され始めた時に。
系統に流しきれないとか需要がないということを解消するために、アジャイルエナジーXが電力需要を作るということに関しては、例えばビットコインマイニングの場合はかなり短期間で設置から運用開始までできるんですね。
例えば群馬県昭和村の我々の案件の場合、これは50キロワットのコンテナ入りなので小規模だからではありますが、数ヶ月で調達から設置から運用開始までできました。
規模を大きくしていくと、当然、掛かる時間はそれなりに伸びるんですが。
モジュラー型で、例えば20フィートコンテナという標準的なコンテナの中にマイニング装置を、例えば数百キロワットとか、1メガワット分ぐらい入れるとした時に。
それが全部で100メガワット必要ですとなったら100セットを入れなければならないんですが、1セット入れるのに100倍掛かるかというと、そんなことはなくてですね。
必要な台数を一気に調達して並べていくのには、1台設置するよりは100台設置する方が多少は時間はかかりますが、全然100倍はかかりません。
例えばアメリカで数百メガワット規模のマイニング設備がたくさん稼働しているんですけれど、おそらく建設して設置するのに1年もかからない、規模が大きいと1年ぐらいかかるかもしれないんですけれど。
「発電所自体を作る・何年もかかる」っていうのと比べると、全然短期間でマイニング設備は設置できると思っています。
それはビットコインマイニングの強みでもあってですね。短期間で設置できますし、設置したらすぐに動かすことができる。
未利用の電力が減っていったら、コンテナ単位で縮小することもできるし、別の場所に移動することもできる。
そういう強みがビットコインマイニングにはあると思っています。
かなり柔軟にできるから、徐々に導入していくところも増える可能性があるよね。
そうですね。
今AIデータセンターを作るみたいな話が日本でも盛り上がっていて、それはそれで必要性もあるし、価値はあると思うんですけれど。
普通のデータセンターは大きなデータセンターを何年もかけて、一気に作ると、そういうプロジェクトになるのですが。
そのデータセンターの需要が完成する何年後にもちゃんとあるかどうかっていう見通しって結構難しかったりしますし。
一旦作ったらそれを動かすことは出来ませんし、縮小することもなかなか難しい。
ビットコインマイニングの場合はコンテナ単位、あるいは最終的にはマイニング装置一台単位で、必要な台数だけ設置して、いらなくなったら一台単位で減らすこともできる。
別のところに持って行くことができる。
そのフレキシビリティが貴重な付加価値になっていると思っています。
※フレキシビリティ…変化に対する柔軟性や融通性(電力分野では変動性と不安定性を管理して、需要と供給をバランスさせる送配電系統の能力を指す)
AIデータセンターも電力をたくさん使うから、再エネ発電で余っている電力の使い道になるかもしれないけれど。
24時間常に稼働するシステムだし、安定した電力が必要になるから、電力供給が変動しやすい再エネ電力の場合は他の電力も組み合わせる必要があるかもしれないね。
状況に応じてON・OFFができるビットコインマイニングは、再エネ電力の余剰電力を効率的に吸収してくれる利点があるよね。
コンテナ型で移動も設置もしやすいし、各地の余剰再エネを無駄遣いせず消費するのにぴったりだと思うんだ。
終わりに
アジャイルエナジーXに関する色々な疑問を聞いてみたけど、どの質問にも立岩さんが丁寧に答えてくれてうれしかったなぁ。
多くの人にアジャイルエナジーXの取り組みを知ってもらって、日本で少しずつでもビットコインマイニング×再エネ電力っていう仕組みが普及すればいいなって思ったよ!
立岩さんがビットコインのことを深く理解されているのが伝わってきたよ。
日本の電力業界のスペシャリストの中にビットコインに詳しい人がいるっていうのは、とてもワクワクすることだなって思うんだ。
立岩さん、今回はお話を聞かせてくださってありがとうございました!
アジャイルエナジーX公式サイト
https://agileenergyx.co.jp/
執筆者:Shigeru Minami
「知っとこ!ビットコイン図鑑」制作者。
ビットコイングッズのハンドメイド作家として活動中。
関連記事:【イラスト解説】ビットコインって何?仕組みや何に使えるのかを初心者向けにわかりやすく解説
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